コメント:サイモン・ラースン
私は短剣道の昇段規定に関しあまり詳しくはないが、恐らく八段といえばそれ相応に年配であると思う。試合で戦う両者の段に開きがあれば、大抵高段者はエネルギーを浪費せず、テクニックと経験を活かした戦いをする。しかし、菊池には当てはまらなかった! 彼は20歳の若者のように競技場を飛び跳ねている。
菊池は、試合開始直後、脇に体を避け、喉突きのための角度を付けた。私の経験上、これは重要なことで、もし相手に胴を突かれたくない場合、あるいは先に一本を取られそうな時、角度をつけることによって、相手が狙いを定めにくくし、真っ直ぐ伸ばした腕で突けなくすることになる。
脇に避ける練習をすれば、構えを崩さずに突けるようになる。菊池と桜井の最初の数歩の足捌きを見比べてみよう。菊池は角度を変えるために後ろ足を少しだけ交差させており、桜井は前足を使っている。後足を使えば、後足から左腰そして右肩が同一ラインになり、自然に竹刀を真ん中に保持できる。前足を使うと、円を描くように迂回することになり、たいてい注意されるのだ。この違いは33秒で確認できる。桜井は突きの衝撃で構えを崩したのではないと思う。恐らく、左側を狙う突きの経験が少なかったのではないか。
菊池は次の「始め」の掛け声の後、同じことを試みたが、桜井は乗ってこなかった。そこで菊池はエネルギーを放ち、試合は私が期待したのとは真逆のものになった。53秒と1分13秒は、一本を取ったように思えた。1分36秒の桜井への一本はよく分からない。竹刀の長さから考えて、私には菊池の方が早く突いたと思えたが、桜井のほうが良い残心を示した。
最後の一本は、角度を変えるというような小さなことが、全てを変えてしまうというのを示す例になるだろう。そして皆が初一本が好きだ。
私が試合開始直後のかけひきを学ぼうとしているときに言われた大切なことは、間合いに良く注意を払うことであった。ビデオを見れば(特に最後の一本では)、菊池は桜井のだいぶ前に攻撃の踏み込みを開始している。角度を変えることで、桜井の間合いの感覚を混乱させたのではないだろうか。最後の踏み込みを最初に始めたほうが、明らかに有利である。私の場合、近間の突きが近すぎて、腕が曲がってしまいがちである(実は、相手にこそそういうミスをさせたいのだが。。)。
これを克服し、自分に新しい間合いを学習させるために、私は「既に突いた」腕の形をキープしつつ、駆けながら喉を突く練習を始めた。また、良い姿勢での正しい間合いを知るために、足捌きを練習した。練習試合では、この作戦で一本取ることができたので、ぜひ練習の参考にしてほしい。
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